大会テーマ

国際力動的心理療法学会第23回年次大会のテーマが決定いたしました。
大会会長より大会趣旨と合わせてお伝えします。

 

大会テーマ:「自我の力と可能性―心理・教育・医療・看護における展開の鍵」

IADP 第23回年次大会のテーマは『自我の力と可能性―心理・教育・医療・看護における展開の鍵』(The Potentiality of the Ego)です。心の運営主体としての自我の本来持っている力とその潜在的な能力は、力動的心理療法にとって欠かせないものです。しかし、IT機器の浸透やグローバル社会によるハイスピードな情報交換が日常化しつつある現代社会において、自我の脆弱性を示すかのようで、自分の心と向き合うことを回避する臨床群がわれわれの前にあらわれています。

自我の能力の本質は、Freud, S. が想定したように、欲求-充足の間に時間と空間を与え、適切な時に、適切なやり方で、適切な対象との充足を図る機能です。待つことを楽しむ能力、その時間に育まれる相手への想い、自分自身を十分に感じる空間、そのような豊かな時間や空間が失われつつあるということでしょうか。

自我は同時に自分を守る機能があります。そしてその機能は、成長の中で洗練されていきます。しかし、ある傷つきによって、ある怖れによって、見たくないものを見たくないということによって、自分を守る機能が過重になり、それを新たに洗練していくことも停滞します。Freud, A. が描いた自我の防衛機制です。

自分を守ることにばかりに使うだけでなく、嫌なものでも、見たくないものでも、“あるものはある”ことを受け止め、受け入れていく能力が自我にはあります。

自己への馴染みがあり、自我心理学はきついという風土が日本にはありますが、そこには大きな誤解があります。“あるものはある”ことの真実性を追求する自我こそが、混沌とした高度情報社会において改めて問われるのではないでしょうか。いわゆる“クライアントを傷つけてはいけない”という対応による問題の上塗りは、臨床家の自我脆弱性によるごまかしで、クライアントのごまかしを助長します。クライアントの自我が不必要な防衛を捨て、真実を受け止めるように機能したときに、心が回復し動き出すのです。

大会では、『自我の力と可能性』をテーマに、会期の3日間を通して、自我の能力の査定および防衛機制の現代的意義を考え、クライアントのみならず、彼らを取り巻く環境としての家族、教師、職場の人たち、さらには、自我を鍛える機会が少ない社会に生きる私たち臨床家自身が、潜在的に眠らせている自我の力を賦活し、活用していくための学びができることが目標です。

第23回年次大会 大会会長 能 幸夫
(PAS心理教育研究所 所長)